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Japio YEAR BOOK 2020 寄稿『IPランドスケープ実践に向けた企業内教育の在り方』全文公開

弊社の井上・田中・山内が共同執筆し、一般財団法人日本特許情報機構(Japio)発行『Japio YEAR BOOK 2020』に寄稿した「IPランドスケープ実践に向けた企業内教育の在り方」の全文を掲載します。IPランドスケープ(IPL)の自走を目指す企業に向けて、外部専門家をメンターとして活用したOJTの有効性、個別化教育プログラム、評価の在り方、そして早期に自走に至る企業に共通する企業内IPL体制の在り姿を論じた寄稿です。

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Publication
標題
IPランドスケープ実践に向けた企業内教育の在り方
Perspective for corporate education for competitive IP landscaping
掲載誌
Japio YEAR BOOK 2020「寄稿集 特許情報の高度な活用」pp.192–197
発行
一般財団法人 日本特許情報機構(Japio)/2020年12月
執筆
株式会社知財ランドスケープ 井上 貴夫(執行役員)/田中 圭(取締役COO)/山内 明(代表取締役CEO)※肩書は執筆当時
Author
井上 貴夫Takao Inoue
株式会社知財ランドスケープ 執行役員(執筆当時)
電機メーカでのCDMA基地局開発業務や自動車メーカでの出願・権利化・他社権利調査業務を経て伊藤特許事務所に入所。伊藤特許事務所の弁理士であり、株式会社知財ランドスケープには創設メンバーの一人として参画し、現在に至る。
Author
田中 圭Kei Tanaka
株式会社知財ランドスケープ 取締役COO(執筆当時)
IT関連企業での営業職、特許事務所での特許、意匠、商標の各種調査、出願、システム管理業務などを経て現職。同社システム管理や営業も担いながら、大手、中小・ベンチャー企業に対する知財情報解析を活用した提案型業務に従事。
Author
山内 明Akira Yamauchi
株式会社知財ランドスケープ 代表取締役CEO
精密機械メーカでの開発業務や特許事務所での特許出願業務、株式会社三井物産戦略研究所に所属し、三井物産グループ向け知財コンサル部門を統括、多岐に亘る知財コンサルティングを経て現職。知的財産コンサルティング実務に基づく知財情報戦略(狭義のIPランドスケープ相当)の提唱者。

1.はじめに

近年、IPランドスケープ(以下、IPLと略す)という戦略提言の取組1)が注目を集め、多くの企業で経営幹部の期待を高めている。しかしながら、IPLを自社内で実践できている企業は少数派であり、多数派では、未だ準備段階にあり、弊社のような外部専門家に委託するところも少なくなく、むしろ委託件数は増大傾向にある。外部専門家の立場からすれば、IPL依頼の増加は有難いが、クライアントファーストの観点では手放しで喜べない。クライアント企業が外部専門家に過度に依存することなく自走し、自社内で経営幹部から評価を得てこそ真の実践だからだ。いみじくも2018年後半頃から弊社への依頼内容が変化し、従来からの案件毎のIPL支援の委託に加えて又はこれに代えてOn the Job Training(以下、OJT)の支援依頼が増加した。IPL実践の自前主義を目指して奮闘するも経営幹部の期待に応えるには長期戦の様相となり、それを打破するためにOJT支援が求められた格好といえる。

こうして弊社は、OJT支援を中心としたIPL教育サービスを本格化させ、クライアントファーストの精神で数多くの企業の自走を支援してきた。本稿では、企業内教育におけるニーズとそれに応えるサービスを例示し、もってIPL実践に向けた打開のヒントを供したい。

2.IPL実践に向けた企業内教育

2.1 IPL教育の在り姿と現実解

IPL実践の経験豊富な実務家を自社内に擁し、その専門家がメンターとなって新たな実務家を育てることが企業内教育の在り姿である。しかしながら、IPLについては、上述した通り自社内で実務家が欠如する場合が多いため、OJTが有効に機能せず、非効率な試行錯誤が避けられない。従って、現実解としては、IPL実践の準備段階〜導入期においては、外部専門家をメンターとして活用することが有効である。

ここで重要なことは、図1に示す通り、対象企業の業種・業態、競合との関係やバリューチェーン上の位置付け、担当部門と他部門との関係などに応じたOJT、すなわち個別化されたOJTとすべきことである。従って、外部メンターにOJT支援を託す以上、個別化に長けたメンター候補を選定すべきことは勿論、上述した関係性を相互理解する必要がある。

図1 企業内IPL実践の自走に有効な外部メンター

図1 企業内IPL実践の自走に有効な外部メンター

2.2 IPL教育の個別化プログラム例

図2は、弊社がIPランドスケープ・ロイヤルティプログラムと称して2020年5月に開始したサービスコンセプトであり、教育①〜④の4項目からなる。個別化を実現するためのポイントが2つ有り、1つ目はIPL実践の準備段階にあるクライアント企業を想定し、いきなりOJT(教育④)で消化不良になる事態を回避すべく、教育①〜③を前段に設ける点である。具体的には、座学によるインプット(教育①)、自社特許ポートフォリオの見える化や特徴把握を意味する特許棚卸(教育②)、特許棚卸によって得られた具体的テーマについて受講者自らが行うWork Shop(教育③)を前段に設ける。これによって、IPL実践の準備段階にあるクライアント企業の社内教育を円滑に進めることができる。

2つ目のポイントは、クライアント企業の担当者のレベルに応じて、教育①〜教育④を取捨選択したり、一連のスケジュールを最適化する点である。例えば、IPL実践経験を一定程度有するが更にレベルアップしたいという上級者が対象の場合には、教育①(座学)、場合によっては教育②(特許棚卸)や教育③(WS)を割愛し、その分、教育④(OJT)を前倒し実施し、時間を掛けてレベルアップの醸成を図ることができる。逆に、全くの初級者が対象かつ負荷的事情でペースを抑える必要が有る場合には、対象期間のゴールを教育④(OJT)から教育③(WS)に変更し、その分、教育①(座学)や教育③(WS)により時間を掛けることもできる。これらによって、クライアント企業の受講者のレベルや負荷の状況に応じ、社内教育を最適化することができる。

図2 IPL教育の個別化例(弊社ロイヤルティプログラム)

図2 IPL教育の個別化例(弊社ロイヤルティプログラム)

なお、座学については、受講者の利便性などに鑑みれば、常時閲覧可能な動画配信の類が好ましく、弊社でも独自配信や提携先経由での配信を行い、ニーズに応じている2)

2.3 IPL教育の個別化具体例(特許棚卸/WS/OJT)

ここで、上述した教育②(特許棚卸)について補足したい。特許棚卸は、WSに対する受講者のモチベーションや集中力の向上を狙い、自社の実際のポートフォリオを題材としたものとすることが好ましい。図3は特許棚卸の一例であり、縦横に異なる特許分類を配したマトリクスマップ上、クライアント企業の事業や技術毎にクラスタリングし、更に出願時期などの情報を付記し、1枚のスライドにまとめている(最左図)。これを起点として、例えば事業Aでは累計件数は多いものの近年件数減っており、コモディティ化が進んでいることが読み取れた場合には、「事業Aに係る特許技術を活用した新規用途探索」というテーマを即興で想い描くことができる。

図3 IPL教育の個別化具体例(特許棚卸編)

図3 IPL教育の個別化具体例(特許棚卸編)

続いて、教育③(WS)について補足したい。WSでは、例えば、特許棚卸で複数設定されたテーマをチーム毎に割り振り、それぞれのテーマについて検索(母集団設定)⇒マクロ分析⇒ミクロ分析⇒戦略提言と回を分けて実施する。毎回、メンターが木目細かくフォローすることで、成果物である戦略提言レポートの確度を高まるとともに受講者の実践力を養うことができる。

図4 IPL教育の個別化具体例(WS編)

図4 IPL教育の個別化具体例(WS編)

最後に教育④(OJT)についても補足したい。OJTは受講者自らが事業部門や経営企画部門と協議しながらテーマを決定し、更に何らかの仮説をもって分析、検証していくのが常であるが、WSを終えたばかりの受講者にとっては決して容易ではない。そこで、改めてメンターの出番となるが、ここでメンターが最も留意すべき点はスピードである。具体的には、受講者が期限に追われる中、メールで問い合わせしてきた場合、三日後の回答ではいかに適切な内容であったとしても役に立たない筈であり、好ましくは翌日までに、理想的には即日回答すべきである。そのためには、受講者が困っている内容を即座に把握し、打開策としての分析方法やアプローチを臨機応変に提示する必要が有り、メールに頼るのではなく、ビデオ会議なども活用すべきであろう。なお、弊社では、こうしたOJT支援を「壁打ちプログラム」と称し、独立したサービスとしても提供している2)

2.4 IPL教育の評価

OJT支援が進むに連れて受講者の独り立ち(自走)が近付くことになるが、ここで問題となるのが、受講者の理解度や実践度の評価である。受講者の上司がIPLの実務家であれば何ら問題ないが、外部専門家がメンターを務めるケースの殆どでは、実務家が不在であり、問題となるのだ。実際、弊社でも、OJT支援の発展形として評価まで求められることが少なくない。

図5は、評価項目例として、①構想スキル、②母集団設定スキル、③知財情報戦略1)実践スキル、④潮流把握スキル、⑤攻め筋具体化スキル、⑥提案表現スキルの6項目を採用したものであり、これらのスコアリング、評定例は図6の通りとなる。尚、詳細についてご覧になられたい方は「IPL実践事例集 第3章 第3節3)」を参照されたい。

図5 IPL教育(OJT)の評価項目例

図5 IPL教育(OJT)の評価項目例

図6 IPL教育(OJT)のスコアリング/評定例

図6 IPL教育(OJT)のスコアリング/評定例

3.企業内IPL体制の在り姿についての考察

クライアント企業のIPL教育を通じての気付きとして、早期に成果を挙げる企業、換言すれば早期に自走レベルに至る企業には、いくつかの共通点が認められる。僭越ながら、それらの共通点に基づき企業内IPL体制の在り姿を論じたい。

図7は、①IPL専任チームの組成、②知財部門と他部門(事業部門)との連携強化、③経営幹部によるIPLの正しい理解と重視する姿勢、の3点を共通点として掲げたものである。①IPL専任チームについては、短期間で成果を挙げるには、兼任ではなく専任の方が圧倒的に好ましいことを意味する。これは教育時間を確保できて好ましいという問題だけでなく、厳しい負荷状況で部門長がIPL専任者を定めることで、専任者自身のモチベーションが大きく高まることに意義がある。実際、某クライアント企業では、IPL教育開始当初、知財部長が全部員にIPL専任者の必要性を唱え、専任者捻出による負担を残り全員で補うことを決意表明された。当時、想定された専任者は期中1名であったが、上記決意表明でモチベーションが最高潮に達した専任者は目覚ましい成長を遂げ、約半年後には、自走に近いレベルに達した。その様子を見守っていた周りの同僚の中には、「我こそ2人目に!」と強く意思表明する方が現れ、これを受けた知財部長による2度目の英断の結果、異例ともいえる期中の専任者追加が実現した。その企業については、期末時点で目標を大きく上回る成果を挙げたことは言うまでもなく、①IPL専任(チーム)の重要性を物語るものといえよう。

②部門間連携強化については、弊社自身、クライアント企業からの要望を受け、知財部門と他部門(事業部門や経営企画部門)との面談に同席する場合がある。この場合、弊社では、予め部門間関係を伺った上で面談が盛り上がりそうなネタを準備し、当日の面談では、部門間連携の強化策を模索し、その場で提案するように努める。弊社提案が採用された結果、部門間連携が進展しIPL実践の弾みとなったことは少なくなく、部門間連携強化の重要性を物語るものといえよう。

③経営幹部によるIPLへの理解などについては、クライアント企業に対して弊社の出番は意外にも多い。内輪の人間に内輪の人間は厳しいことが災いし、知財部長が経営幹部にIPLの重要性を主張しても琴線に触れ難いことから、IPL教育のキックオフなどの場面で、有難いことに基調講演をさせて頂くことが多いからだ。

図7 企業内IPL体制の在り姿例

図7 企業内IPL体制の在り姿例

4.おわりに

本稿では、IPLを自社内で実践できていない企業が未だ多いことに鑑み、外部専門家をメンターとして活用することの有効性や、個別化プラグラムの重要性を論じた。更に、弊社教育サービスを紹介し、更に同サービスを通じて導き出された企業内IPL体制の有り姿についても述べた。弊社自身、未だ勉強中ではあるが、IPランドスケープ専業として、クライアント企業のビジネスコンパスで有り続けられるよう引き続き精進し、ニーズに応じた新たなサービスを開発、提供していきたい。

注記(引用文献、参考文献)

Web参照日は、2020年7月7日。文献の名称・URL・肩書などはいずれも執筆当時のものです。

1)Japio YEAR BOOK 2017「IPランドスケープ実践に役立つ知財情報戦略」(2017年12月)https://japio.or.jp/00yearbook/files/2017book/17_2_10.pdf

2)株式会社知財ランドスケープホームページ(ニュース)
https://ip-ls.co.jp/news20200616/

3)技術情報協会「IPランドスケープ実践事例集」(2019年5月、共著、第3章 第3節 コンサル会社での教育実践)http://www.nts-book.co.jp/item/detail/summary/hoki/20190531_59.html

※ 本記事は『Japio YEAR BOOK 2020』(一般財団法人日本特許情報機構、2020年12月発行)掲載の寄稿を転載したものです。本文中の内容・数値・所属・肩書などはいずれも執筆当時のものです。

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