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Japio YEAR BOOK 2018 寄稿『IPランドスケープ2.0』全文公開

弊社山内(執筆当時:株式会社三井物産戦略研究所 知的財産室室長)が、一般財団法人日本特許情報機構(Japio)発行『Japio YEAR BOOK 2018』に寄稿した「IPランドスケープ2.0」の全文を掲載します。「仮説検証の積上」の向かうべき方向=「論点のゴール」を合理的に特定しつつ戦略提言に繋ぐフレームワークとして考案した「IPランドスケープ2.0」を、①業界潮流の把握、②「論点のゴール」設定/戦略提言の2ステップに沿って、豊富な適用例とともに紹介した寄稿です。

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Publication
標題
IPランドスケープ2.0
IP landscaping 2.0
掲載誌
Japio YEAR BOOK 2018「寄稿集 特許情報の高度な活用」pp.200–209
発行
一般財団法人 日本特許情報機構(Japio)/2018年12月
執筆
山内 明(執筆当時:株式会社三井物産戦略研究所 技術・イノベーション情報部 知的財産室室長/現:弊社代表取締役社長CEO・弁理士)
Author
山内 明Akira Yamauchi
精密機械メーカーでの開発業務や特許事務所での特許出願業務を経て現職。知的財産コンサルティング実務に基づく知財情報戦略(狭義のIPランドスケープ相当)の提唱者。互教の精神によるネットワークを活かして知財情報戦略の進化と啓蒙に邁進中。(プロフィール・所属は執筆当時のもの)

1.1.はじめに

2017年7月17日付の日経新聞朝刊の法務面1)にIPランドスケープという用語が取り上げられ、欧米が先行活用する知財分析手法及びこれを用いた知財重視の経営戦略の総称として紹介された。著者のインタビュー内容が掲載されたことから様々な企業から問い合わせを受けるようになり、その頻度が増す様子からIPランドスケープへの期待の高まりを実感している。問い合わせに応じる中で、ふとあることを気付かされた。知財情報戦略(弊狭義のIPランドスケープ)の「8つのポイント2)」の一つ「仮説検証の積上」の向かうべき方向(以下、「論点のゴール」という)の設定が難題なのだ。具体的には、「論点のゴール」は、予め与えられる場合は問題無いが、そうでない場合には、担当者任せとなることが多く、「仮説検証の積上」が頓挫し兼ねないのだ。

そこで、納得感のある「論点のゴール」を合理的に特定しつつ戦略提言に繋ぐためのフレームワークを鋭意検討した結果、一定の妥当性と汎用性を備えるものとして、IPランドスケープ2.0なるものを具現化できたため、以下に紹介したい。

2.知財情報戦略

知財情報戦略については、昨年の寄稿3)で説明済であるが、改めて要点を述べると、「8つのポイント」に留意することによりIPランドスケープ実践を可能とするものである。「8つのポイント」は、図1の通り、視点に関する①〜④と、スキームに関する⑤〜⑧に大別される。①「攻め/守り」の両視点では、技術開発や事業参入/拡充を時間で買うM&Aを想定した場合、「攻め」のイメージが先行しがちなるも、「守り」の側面、例えばM&Aによるリスクマネジメント上の効果も勘案すべきことを意味する。②「特許情報/非特許情報」の両視点では、特許情報が企業活動に伴う情報の一部に過ぎず、非特許情報との高度な補完が重要であることを意味する。③「時系列/非時系列」の両視点では、例えば、知財の売込を想定した場合、累計件数という非時系列情報だけでは対象知財が候補先にとって旬か否かを判断できないため、近年の候補先の関連出願状況などの時系列情報も勘案すべきことを意味する。④「マクロ/ミクロ」の両視点では、「木を見て森を見ず」とならないように注意すべきことを意味する。⑤「ポジション把握」及び⑥「ベンチマーク対比」では、特許マッピングによれば対象企業のポジションが把握できる筈であり、その上で対象企業の傾注分野の注目すべき競合候補(ベンチマーク)を特定し、これと対象企業を直接対比して深堀分析すれば、具体性や信憑性が担保されることを意味する。⑦「仮説/検証の積上」では、視覚化された特許情報から得られた気付きを仮説に変換し、これを検証して有用かつ確度の高い一事象が知得されるところ、その積み上げ(繰り返し)によって信憑性や提言力が増大されることを意味する。⑧「将来予測」とは、経営幹部への戦略提言の要ともいえるもので、⑦「仮説/検証の積上」の結果を基礎とした、ビジネス視点での将来予測を意味する。

図1 知財情報戦略の8つのポイント

図1知財情報戦略の8つのポイント

3.「仮説検証の積上」の実践事例

2015年5月当時、自動運転走行で累計100万マイルを突破したとして話題であったGOOGLE(現WAYMO)について、話題にも拘わらず同社の脅威を具体的かつ信憑性高く炙り出したものが見当たらなかったことに着目し、これを「論点のゴール」に定めた事例2)を紹介したい。具体的には、図2の通り、「自動運転分野におけるGOOGLEの脅威を具体的かつ信憑性高く炙り出す」という「論点のゴール」を設定し、「仮説検証の積上」を実践した事例紹介である。より具体的には、表1の通り、完全自動運転普及時の定量面での強み([1-1]、図3)、完全自動運転志向の高さ([1-2]、図4)、かかる普及のネックとなるLiDAR開発での優位性([2-1]、図5)、技術力の源泉たる人財の充実([2-2]、図6)、地図情報での強み([3]、図7)を順次炙り出し、もって「仮説検証の積上」を実践した。

図2 「論点のゴール例」自動運転分野のGOOGLEの脅威

図2「論点のゴール例」自動運転分野のGOOGLEの脅威

[1-1] 定量面での脅威
GOOGLEは自動運転の肝たる制御系の母集団上、存在感大。完全自動運転普及時に残存する2011年以降出願に限れば、定量面で他社を圧倒

[1-2] 完全自動運転志向の高さ
完全自動運転と相関のある特許分類比率で他社を圧倒

[2-1] LiDAR開発での優位性
普及時のコストネックとして早期から独自開発

[2-2] 技術力の源泉たる人財の充実
DARPA URBAN CHALLENGE 2007で活躍したオールスター軍団をヘッドハンティングして集結

[3] 地図情報での強み
世界3大地図企業の立場を活かし、安価かつ高性能な制御系の実現を目論む

表1「仮説検証の積上例」同分野のGOOGLEの脅威

図3 「仮説検証の積上1-1」定量面での脅威

図3「仮説検証の積上1-1」定量面での脅威

図4 「仮説検証の積上1-2」完全自動運転志向の高さ

図4「仮説検証の積上1-2」完全自動運転志向の高さ

図5 「仮説検証の積上2-1」LiDAR開発での優位性

図5「仮説検証の積上2-1」LiDAR開発での優位性

図6 「仮説検証の積上2-2」技術力の源泉たる人財の充実

図6「仮説検証の積上2-2」技術力の源泉たる人財の充実

図7 「仮説検証の積上3」地図情報の強み活用

図7「仮説検証の積上3」地図情報の強み活用

本実践事例の妥当性については、約半年後のToyota Research Institute(TRI)設立や、DARPA Robotics Challenge 2015でプロジェクトマネージャとして活躍したGILL A. PLATT博士(MIT出身のロボット工学権威)を同社CEOに抜擢したことから裏付けられよう。当時のTOYOTAは、車載OSでGOOGLE陣営と明らかに距離を置いたポジションであり、両社間提携は考え難く、徹底抗戦に耐え得る挽回策を講じることが急務であったところ、上述したTRI設立やCEO抜擢は最良の挽回策といえるからだ。

4.「論点のゴール」設定とIPランドスケープ2.0

「論点のゴール」が与えられた場合や、前章のように担当者が「論点のゴール」をたまたま思い付いた場合には、後は知財情報戦略の実践あるのみであり、かかる実践自体は特に難題とはいえない。しかしながら、第1章で述べた通り、「論点のゴール」を担当者自らが設定することは難題となることが多く、「何故、この論点のゴールを設定したのか?」という質問に窮し兼ねない。かかる質問に窮する事態を回避するには、納得感のある「論点のゴール」を合理的に特定しつつ戦略提言に繋ぐためのフレームワークが求められる。

鋭意検討した結果、納得感を得るには客観公平性が重要故により高い視座が求められることから、まず業界潮流を把握し、次いで当該潮流に即して「論点のゴール」を設定すべきとの考えに至った。また、「論点のゴール」を設定した後、自社ポジション分析を経た上で、「論点のゴール」に応じた解決策(例えば、研究開発戦略における傾注分野特定など)を取捨選択しつつ深堀分析すれば、攻め筋や脅威抑制策の提言に繋ぐことができ有効との考えに至った。

以上より、まず業界潮流を把握し(ステップ①)、次いで「論点のゴール」設定/戦略提言を図る(ステップ②)というフレームワークを考案し、かかるフレームワークを用いるものを(従来と区別すべく)IPランドスケープ2.0と定義した(図8参照)。

図8において [1] アライアンス/企業買収、[2] 研究開発、[3] マーケティング(売込先開拓などの狭義)、[4] 資金調達といった「論点のゴール」が比較的明確な場合には、オーソドックスに知財情報戦略(IPランドスケープ1.0相当)を適用できる一方、不明な場合には、IPランドスケープ2.0が威力を発揮し得る。

図8 「論点のゴール」設定とIPランドスケープ2.0

図8「論点のゴール」設定とIPランドスケープ2.0

5.業界潮流

5.1 新潮流などの例

業界潮流については、周知で何ら真新しさがないものでは経営幹部の琴線に触れることができないため、工夫が必要である。例えば、自動車業界であれば、CASE(Connected, Autonomous, Sharing, Electric)という周知潮流だけでは足りず、CASE潮流下での米大手損保を中心とした自動運転保険開発の潮流や、廉価LiDAR開発の潮流(上述したGOOGLEの分析結果参照)など、(その当時の)新潮流やユニーク潮流と呼べるレベルのものが求められる。図9は、著者が過去3年半程の間に知得した新潮流などを抜粋列挙したものであるが、イメージだけでも読者と共有できれば幸いである。

図9 新潮流/ユニーク潮流の例

図9新潮流/ユニーク潮流の例

5.2 新潮流など把握に有効な4つのアプローチ

改めてステップ①としては、業界潮流(新潮流など)の把握が求められるところ、著者が多用する4つのアプローチ(表2の①〜④)を紹介したい。

表2 新潮流等把握に有効な4つのアプローチ

表2新潮流など把握に有効な4つのアプローチ

まずアプローチ①は、他社被引用数に着目するものであり、図10のロジスティクス関連のビジネスモデル発明分析で例示したい。図10は、横軸にファミリー出願の最先優先日(年)、縦軸に上位出願人を配し、更に出願件数に応じたバブルチャートを他社被引用数で色分けしたものである(2017年7月作成、以下同様)。図10によれば、当時首位のAMAZONについて2010年を最先優先日とする特許出願(緑色部)が他社被引用数面で突出しており要注目といえる。仮に当該出願の被引用が最近増えたとすれば、AMAZONだけでなく他社も技術開発で追随する動きがあるといえ、その動きを新潮流として特定できよう。また、特に新しい潮流を特定したい場合には、AMAZONであれば、2014年を最先優先日とする特許出願(桃色部)に注目して同様に新潮流を特定し得る。ここで、自社及び他社を合算した全被引用数ではなく他社被引用数を用いるのは、より必須特許の資質のあるものを効果的に特定するためである。具体的には、自社被引用数がいくら多くても他社被引用数が少ないのでは、対象発明及びこれが化体した商材がガラパゴス化している懸念があり、ミスリードの危険性すらあるのに対し、他社被引用数が多いものに限定すれば、かかる懸念を払拭でき、より必須特許の資質のあるものを効果的に特定できるためである。必須特許候補の資質としては、他社被引用数以外にも多数の観点が有りかつ他社被引用数だけでも複数の捉え方があるところ、これらをまとめた一例を必須特許特定の21のクライテリアとして考案済(図11)なので、適宜参照されたい。

図10 アプローチ①の適用例

図10アプローチ①の適用例

図11 必須特許特定の21のクライテリア(2015年6月付日経BP技術者塾等で発表済)

図11必須特許特定の21のクライテリア(2015年6月付日経BP技術者塾などで発表済)

次にアプローチ②は、各社特徴分野に着目するものであり、図12のロジスティクス関連のビジネスモデル発明分析で例示したい。図12では、IPC(International Patent Classification)と称する特許分類、縦軸に上位出願人を配し、更に出願件数に応じたバブルチャートを最先優先日(年)で色分けしたものである。図11によれば、当時首位のAMAZONについてピッキング自動化を想起する「取り出す物品を選択する装置・・(B65G1/137)」での存在感が大きく、同社がピッキング作業を自動化し、既に採用したKIVA SYSTEMSによるAGV(倉庫内自動搬送車)と併せ、完全自動倉庫化を目論んでいる様子が伺える。このことからAMAZONによる完全自動倉庫化の動きが進むと推測され、リテール業界に留まらない同社影響力に鑑みれば、これを新潮流として特定して注目することは妥当であろう。

図12 アプローチ②の適用例

図12アプローチ②の適用例

次にアプローチ③は、上位出願人や要注目出願人について直近の出願公開に着目するものであり、それらを個別確認すれば足りるので割愛する。

最後のアプローチ④については、上述した図5に基づいて例示したい。図5は、自動運転分野の母集団上、GOOGLE名義には付与されるが他社名義には付与されていない(その意味でユニークな)IPCに着目し、その頻度に応じたユニークIPCランキングマップとしたものであり、これによれば、完全自動運転普及の鍵であるLiDAR開発におけるGOOGLEの先駆性及び優位性が炙り出される。図5では、最先優先日(年)毎にバーチャートを色分けしており、これによれば、時期的トレンドも把握できるため、例えば、より新潮流に焦点を当てたい場合には、直近の出願公開に係るものに着目すれば良い。

以上のアプローチ①〜④については、比較的入念に把握したい場合にアプローチ①〜③をセットで、比較的簡便に把握したい場合にアプローチ④を単独で用いると効果的であることを申し添える。

6.「論点のゴール」設定/戦略提言

6.1 自社立ち位置確認/「論点のゴール」設定

続くステップ②となる「論点のゴール」/戦略提言の内、「論点のゴール」については、事前に自社立ち位置を確認するのが肝要である。上述した自動運転分野において廉価LiDARが普及の鍵という新潮流(2015年5月当時知得)について例示すれば、自社立ち位置によって対策が大きく異なるからだ(図13参照)。例えば、自社が部品メーカー、特に光学機器や精密機器に強みがある場合には、「廉価LiDARの製造販売自体を目的とした事業参入の有望性」が、自社がOEM又はTier1である場合には、廉価LiDAR開発で有望なスタートアップなどと逸早く提携、出資して囲い込むべく「廉価LiDAR関連の有望スタートアップの探索」が、それぞれ「論点のゴール」として設定され、いずれの場合であるかによって方向性が大きく異なる。

図13 自社ポジション把握/「論点のゴール」設定

図13自社ポジション把握/「論点のゴール」設定

6.2 自社ポジション分析

改めてステップ②としては、まず自社ポジション分析が求められるところ、著者が多用する4つのアプローチ(表3の①〜④)を紹介したい。

表3 自社ポジション分析に有効な4つのアプローチ

表3自社ポジション分析に有効な4つのアプローチ

まずアプローチ①は、図14に例示したランドスケープマップに基づく分析によるものであり、同図ではフッ素化学品のグローバルトップ4の位置関係を示している。図14上、A社(黄色部)は、競合他社が傾注するOLED(Organic Light Emitting Diode)分野(赤枠部)で劣勢といえ、仮に新潮流としてOLEDが有望視される場合、自前主義は得策でないポジションといえ、有望企業への出資や提携が現実解といえる。仮に「論点のゴール」が自前主義の可否判断であれば、否と判断するとともに攻め筋候補として「有望企業への出資又は提携」を想定して深堀分析すれば、「仮説検証の積上」が円滑に進むであろう。

図14 アプローチ①の適用例

図14アプローチ①の適用例

次にアプローチ②は、対象分野の関連出願ランキング分析によるものであり、FCV(Fuel Cell Vehicle)の重要要素である水素燃料タンク分野の母集団上、上位出願人についての時系列マップ(図15、2015年6月作成)をもって例示したい。仮に自社がHONDAだとすれば、累計件数では2位となり首位のTOYOTAに劣勢といえるが、近年の追い上げが顕著であり、逆転は時間の問題ともいえるため、自前主義も可能といえる。なお、FCVは複数の重要要素から成るため、水素燃料タンク分野だけで判断すべきでないことは勿論である。

図15 アプローチ②の適用例

図15アプローチ②の適用例

次にアプローチ③は、注目出願などの引用/被引用分析によるものであり、図15の水素燃料タンク分野のランキング首位のTOYOTA名義出願に着目して例示したい。所定のスクリーニングを得て特定した6件について(図16参照)、被引用出願群19件を特定し、当該出願群の出願人ランキングを求めれば、自社(TOYOTA)に迫る2位にHONDAがランクインしていることが分る。換言すれば、上述したTOYOTA名義出願6件には、競合であるHONDAとの関係で注目度の高いものが含まれるといえ、仮に個別確認すれば、HONDAにとって脅威となり得る特許の把握も可能である。

図16 アプローチ③の適用例

図16アプローチ③の適用例

アプローチ④については、使用ツールに依存することもあり具体的な紹介は割愛するが、その一例としてのOrbit(Questel社)の簡易評価機能を用い、アプローチ②で述べたTOYOTA名義出願6件を特定したことを申し添える。

ここで、上述したアプローチ①/②とアプローチ③/④とは補完関係にあることに留意すべきである。具体的には、アプローチ①/②が定量面から判断するのに対し、アプローチ③/④は引用/被引用数などの注目度(重要度)という定性面から判断するものであり、両者は補完関係にあり、組み合わせて活用することが好ましい。

6.3 攻め筋/脅威抑制策の提言

ステップ②の自社ポジション分析に続く戦略提言では、知財情報戦略に基づき「論点のゴール」に向けて⑤「仮説検証の積上」を行いながら深堀分析し、その分析結果を②「攻め/守り」の両視点から「攻め筋/脅威抑制策」の提言に繋ぐことが肝要である。例えば、「攻め筋」を有望企業への出資や提携と見立てた後は、基本に忠実に知財情報戦略の8つのポイントを実践すれば良い。例えば、出資先や提携先の探索では、まず特許情報の世界で対象技術分野の母集団上、グローバル上位出願人からなるロングリストを作成し、次いで非特許情報の世界で上位出願人を有望性の観点でスクリーニングし、有望と判断された出願人について判断根拠となったキーワードなどを手掛かりとして特許情報の世界で深堀分析するなど、「特許情報/非特許情報」の両視点を駆使することが有効である。ここで、「特許情報/非特許情報」の両視点については、別名「ブーメラン分析」ともいい(図17参照)、一度に留まらず繰り返し行うことで、「仮説/検証の積上」が円滑に進むことも多く有効である。

図17 攻め筋/脅威抑制策の提言に有効な知財情報戦略

図17攻め筋/脅威抑制策の提言に有効な知財情報戦略

7.IPランドスケープ2.0(まとめ)

以上、IPランドスケープ2.0を成す①業界潮流、②論点のゴール/戦略提言のそれぞれについての要点をまとめると、図18の通りとなる。

図18 IPランドスケープ2.0(まとめ)

図18IPランドスケープ2.0(まとめ)

8.コア事業を複数保有する大手企業向けの留意点

IPランドスケープ2.0に直接関係する訳ではないが、大企業向けIPランドスケープにおいて頻出する課題について触れたい。多くの大手企業では、コア事業を複数擁し、コア事業毎に特許ポートフォリオが形成されるのが常であり、これを区分することなくまとめて分析しようとすると、信憑性を大きく損ない兼ねない点に留意が必要なのだ。

そこでお勧めしたいのは、特許ポートフォリオの棚卸を具体的な分析に先立って設けることである。図19を用いて棚卸作業を例示すれば、対象企業がA〜Dまでの4つの事業を擁するとすれば、それぞれの事業について技術開発が日々行われる結果、それぞれに対応する特許出願が順次出願、公開されることとなる。これを縦横に異なる観点を配したマトリクスマップによれば、事業毎の関連技術A〜Dに対応する特許出願群(特許ポートフォリオ)を区分表記可能となる。ここで、件数に応じた大きさのバブルチャート上、最先優先日(年)毎に色分けした表記を併用すれば、近年、どの技術に出願を傾注しているかなど、多面的な分析が可能となり好ましい。具体的には、仮に近年の出願の傾注先が技術Bだとすれば、技術Bに関する新規商材を開発している蓋然性が高いといえ、その売り込み探索(用途探索)を有望テーマとして捉えることが可能である。有望性の真否は対象企業内で検証してもらう必要はあるが、この種のマトリクスマップによれば、有望テーマの検討を積極的に促すことができる。しかも、仮に技術Bの用途探索をテーマ化する場合には、該当部(緑枠部)を切り出して分析用母集団として利用可能であり、シームレスに分析でき効率的である。

図19 特許ポートフォリオの視覚化と棚卸

図19特許ポートフォリオの視覚化と棚卸

なお、詳細説明は割愛するが、昨年の寄稿3)で触れた特許マーケティング2.0との関係でいえば、サイテーション法に繋いだり(図20に示す基本形)、ニーズドリブンバリューチェーン(図21に示す拡張形)に繋ぐことで、シームレスに特許マーケティング2.0を実践可能となり効果的である。

図20 特許マーケティング2.0への展開例(基本形)

図20特許マーケティング2.0への展開例(基本形)

図21 特許マーケティング2.0への展開例(拡張形)

図21特許マーケティング2.0への展開例(拡張形)

9.おわりに

本稿では、大胆にもIPランドスケープ2.0と題し、より高度なIPランドスケープとして位置付けつつ、これを実践すべく鋭意開発したフレームワークやアプローチを紹介した。伝え切れない部分も多々あっただろうが、読者の皆さんにとって、IPランドスケープの実践に向けた第一歩、既に歩んでいる方には更なる一歩に繋がれば望外の幸せである。

本執筆にあたり、特許情報解析の世界で後進を長年指導されている桐山勉氏には、著者を推薦頂いたばかりでなく「IPランドスケープ」の海外取組など、貴重な情報を頂戴した。金沢工業大学大学院 教授の杉光一成氏には、「IPランドスケープ」に加えて「マーケティング・ツールとしての知的財産」を広く提唱頂き、もって著者の「知財情報戦略」及び「特許マーケティング」を後押し頂いた。お二人には、この場を借りて心からお礼申し上げたい。

また、「知財情報戦略」の原型を開発した2009年以降、日本弁理士会 継続研修講座、日本知的財産教育協会 知的財産アナリスト講座(2011年〜)、東京工業大学大学院 キャリアアップMOT(2012年〜)などに登壇し、数多くの受講者や講師陣関係者との出会いがあった。著者とは異なる解析のアプローチやスタイルの持ち主など、魅力的な同志にも恵まれ、共に登壇したり共著するに至った方も少なくない。畏敬する桐山勉氏を目標とし、生涯現役でIPランドスケープの更なる手法改良と実践に尽力することで、著者を支えて下さる全ての方に恩返ししたい。

注記(引用文献、参考文献)

Web参照日は2018年7月13日。文献の名称・URL・肩書などはいずれも執筆当時のものです。

1)知財分析を経営の中枢に「IPランドスケープ」注目集まる M&A戦略に生かす、㈱日本経済新聞社(2017年7月17日朝刊)http://www.nikkei.com/article/DGKKZO1887109014072017TCJ000/

2)知財情報戦略-自動運転編-、㈱日経BP社(2016年7月22日発行)http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/255890.html

3)IPランドスケープ実践に役立つ知財情報戦略、Japio YEAR BOOK 2017http://www.japio.or.jp/00yearbook/files/2017book/17_2_10.pdf全文公開ページはこちら

4)知財情報戦略講座(上級編)、山内明、㈱情報機構

5)知財スキル標準version2.0(チェックシート/スキルカード)、特許庁https://www.jpo.go.jp/sesaku/kigyo_chizai/files/chizai_skill_ver_2_0/check_sheet.pdf
https://www.jpo.go.jp/sesaku/kigyo_chizai/files/chizai_skill_ver_2_0/skill_card.pdf

※ 本記事は『Japio YEAR BOOK 2018』(一般財団法人日本特許情報機構、2018年12月発行)掲載の寄稿を転載したものです。本文中の内容・数値・所属・肩書などはいずれも執筆当時のものです。

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