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Japio YEAR BOOK 2017 寄稿『IPランドスケープ実践に役立つ知財情報戦略 ―特許マーケティングを中心として―』全文公開

弊社山内(執筆当時:株式会社三井物産戦略研究所 知的財産室室長)が、一般財団法人日本特許情報機構(Japio)発行『Japio YEAR BOOK 2017』に寄稿した「IPランドスケープ実践に役立つ知財情報戦略 ―特許マーケティングを中心として―」の全文を掲載します。解析手法の詳細には踏み込まず、有望用途開発・売込先探索など具体的な実践事例を中心に、「知財情報戦略」と「特許マーケティング」の考え方を紹介した寄稿です。

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Publication
標題
IPランドスケープ実践に役立つ知財情報戦略 ―特許マーケティングを中心として―
Strategic Intellectual Property Analysis for competitive IP landscaping
掲載誌
Japio YEAR BOOK 2017「寄稿集 特許情報の高度な活用」pp.198–205
発行
一般財団法人 日本特許情報機構(Japio)/2017年12月
執筆
山内 明(執筆当時:株式会社三井物産戦略研究所 技術・イノベーション情報部 知的財産室室長/現:弊社代表取締役社長CEO・弁理士)
Author
山内 明Akira Yamauchi
精密機械メーカーでの開発業務や特許事務所での特許出願業務を経て現職。知的財産コンサルティング実務に基づく知財情報戦略の提唱者。互教の精神によるネットワークを活かして知財情報戦略の進化と啓蒙に邁進中。(プロフィール・所属は執筆当時のもの)

1.はじめに

2017年7月17日付の日経新聞朝刊の法務面1)に「IPランドスケープ」という用語が取り上げられ、欧米が先行活用する知財分析手法及びこれを用いた知財重視の経営戦略の総称として紹介された。著者のインタビュー内容が掲載されたことから多くの問い合わせを受け、反響の大きさに驚いた。著者は、2011年以降、担当講座において「知財情報戦略」と題し、知財経営に資する知財情報解析の理論と実践事例を紹介してきた。知財経営に資するためには、まずは経営課題を直視する必要がある。2012年に、経営課題を収集分析したレポート2)を特定し、これに基づき【1】アライアンス/企業買収、【2】研究開発、【3】マーケティング、【4】資金調達の4つを重要課題として特定した(表13))。これら4つの重要課題はいずれも「知財情報戦略」で対応可能であり、「知財情報戦略」が「IPランドスケープ」実践に役立つことを裏付けるものともいえよう。

【1】アライアンス/企業買収関連

自社事業の優位性の維持・強化を図るべく、他社とアライアンスしたり買収したりする。

【2】研究開発関連

自社の強みを生かせる有望な新規事業や新製品に繋がるテーマを選定する。

【3】マーケティング関連

自社の強みを評価してくれる有望な売込先を開拓する。

【4】資金調達関連

金融機関などからの資金調達の成否が存続を左右する(特に技術ベンチャーなど)。

表1 重要経営課題例

今般、僭越ながら「IPランドスケープに役立つ知財情報戦略」という主題で寄稿することとなったが、紙面制約との関係から、4つの重要課題の内、企業知財部にとって最も疎遠と目される「マーケティング」に焦点を当て、「知財情報戦略」を紹介したい。

2.知財情報戦略

2.1 知財情報戦略とは

「知財情報戦略」とは、「知財情報解析を活用して知財経営に資する戦略提言を図ること」と定義される4)。「特許情報」ではなく「知財情報」と称するのは、製品情報、企業情報及び市場情報などの非特許情報をも取扱対象とするためであり、特許以外の知的財産(意匠や商標など)だけを非特許情報として扱うものではない。また、「解析」とは、情報収集して母集団を規定する検索ステップ(前工程)と、その母集団内の情報を目的に応じて整理・加工する分析ステップ(後工程)とからなり(図1)、これらの両立無しには、適切な解析結果を得ることはできない。

図1 知財情報戦略及び構成要素の定義

図1 知財情報戦略及び構成要素の定義

2.2 知財情報戦略の8つのポイント

「知財情報戦略」では、特許マッピングツールの使用を前提とし、「8つのポイント4)と称するフレームワークを適宜活用することにより「IPランドスケープ」実践を可能とする。

「8つのポイント」は、図2の通り、視点に関する①〜④と、スキームに関する⑤〜⑧に大別される。①「攻め/守り」の両視点では、技術開発や事業参入/拡充を時間で買うM&Aを想定した場合、「攻め」のイメージが先行しがちなるも、「守り」の側面、例えばM&Aによるリスクマネジメント上の効果も勘案すべきことを意味する。②「特許情報/非特許情報」の両視点では、特許情報が企業活動に伴う情報の一部に過ぎず、非特許情報との高度な補完が重要であることを意味する。③「時系列/非時系列」の両視点では、例えば、知財の売込を想定した場合、累計件数という非時系列情報だけでは対象知財が候補先にとって旬か否かを判断できないため、近年の候補先の関連出願状況などの時系列情報も勘案すべきことを意味する。④「マクロ/ミクロ」の両視点では、「木を見て森を見ず」とならないように注意すべきことを意味する。⑤「ポジション把握」及び⑥「ベンチマーク対比」では、特許マッピングによれば対象企業のポジションが把握できる筈であり、その上で対象企業の傾注分野の注目すべき競合候補(ベンチマーク)を特定し、これと対象企業を直接対比して深堀分析すれば、具体性や信憑性が担保されることを意味する。⑦「仮説/検証の積上」では、特許マップから得られた気付きを仮説に変換し、これを検証して有用かつ確度の高い一事象が知得されるところ、その積み上げ(繰り返し)によって信憑性や提言力が増大されることを意味する。⑧「将来予測」とは、経営幹部への戦略提言の要ともいえるもので、⑦「仮説/検証の積上」の結果を基礎とし、ビジネス視点での将来予測を意味する。

図2 知財情報戦略の8つのポイント

図2 知財情報戦略の8つのポイント

これら「8つのポイント」の関係を「知財情報戦略」のフロー4)で例示すれば、図3の通りとなる。但し、①〜④の4つの視点については、便宜上、「鳥の目」、「虫の目」、「魚の目」と併記した。

図3 知財情報戦略のフロー例

図3 知財情報戦略のフロー例

3.特許マーケティングとは

「特許マーケティング5)」とは、重要経営課題の一つである「マーケティング」について知財情報解析を活用して積極支援するものといえる。従来、「マーケティング」の世界では、知財情報解析が活用されることは稀である。このことは、金沢工業大学大学院の杉光一成教授が、2014年に米ノースウェスタン大学教授でマーケティング業界の世界的権威であるフィリップ・コトラー博士宅を訪問した際、「知的財産はneglected areaであった6)と同博士が述べたことからも明らかである。

なお、「知財情報戦略」との関係でいえば、「特許マーケティング」でなく「知財情報マーケティング」の方が整合するが、講座名称としての呼び易さを配慮し、「特許マーケティング」と命名したことを申し添える。

図4 知的財産とマーケティングの関係

図4 知的財産とマーケティングの関係

4.特許マーケティングの種別と実践事例

「特許マーケティング」には、バージョン1.0(第一世代)とバージョン2.0(第二世代)が併存する。「特許マーケティング1.0」とは、「知財情報戦略(原型含む)」をオーソドックスに適用するもので、著者及び弊講座既受講者が2009年以降、実践しているものである。「特許マーケティング2.0」とは、より大企業向け又はより対象特許数が多い案件に対して効率的に適用すべく「知財情報戦略」をカスタマイズするもので、著者が2015年以降、開発してきた手法の総称である。

4.1 特許マーケティング1.0(有望用途開発事例)

本事例は、著者が2011年に関与した大手素材メーカー向け案件で、カーボンナノチューブを樹脂に微細分散させてなる機能性素材の新規用途開発が目的であった。大手メーカー案件では、一般に対象特許(出願中含む、以下同様)が大量になりがちだが、例えば、研究開発プロジェクトの1テーマに過ぎない場合には、対象特許が片手で足りることが少なくなく、本事例も僅か4件でこれに該当した。また、大手メーカー案件では、技術的には優れるものの製品用途の目論見が外れて窮する、シーズドリブン特有の問題に陥り易く、本事例もまたこれに該当した。

本事例では、まず対象企業(以下、A社という)の関連特許に付された特許分類のランキングマップを作成し、高頻度かつ特徴的なものを特定した(図5)。

図5 対象企業名義特許の特徴把握(予備的解析)

図5 対象企業名義特許の特徴把握(予備的解析)

次に、特定済の特許分類に基づき、1000件程度のスマートな母集団を設定し、出願人ランキングマップで顔触れを確認した結果、A社の競合である東レと、A社に分散技術を供与するB大学が注目に値することが知得された(図6左)。次いで、東レをベンチマーク企業とし、東レ vs「その他」の特許分類別出願時系列マップを作成した結果、東レが導電性フィルムの上市を目論む様子が認められた(図6右)。

図6 関連母集団上のベンチマーク企業の設定・分析

図6 関連母集団上のベンチマーク企業の設定・分析

そこで、東レが特定用途向けに技術開発していたと判断し、特許情報の世界で得たキーワード(東レ、導電性フィルム)を頼りにインターネット検索した結果、東レがタッチパネル用途向け導電性フィルムをサンプル出荷中であり、既存ITO型からの代替えを目論む様子が認められた(図7)。2011年当時は、中国によるレアメタル輸出規制が問題となり、レアメタルの一種でITO型の必須原料であるインジウムの価格が高騰し、安定供給も危ぶまれていた時期であった。しかも、当時、アップルの製品群とアンドロイド対応スマートフォンが牽引役となり、タッチパネル用途向け透明導電性フィルムの市場が急拡大していた時期でもあった。これらを商機と捉え、東レがタッチパネル用途向け導電性フィルムを開発していたことは想像に難くない。

図7 ベンチマーク製品・市場分析

図7 ベンチマーク製品・市場分析

但し、東レが何年も先行する以上、東レに対する優位性をA社が有しなければ、二番煎じに過ぎず商機を見出すことはできないため、ベンチマーク製品となる東レ製サンプル品を調査した。その結果、高純度2層CNT透明導電性PETフィルムという説明書きから、高純度2層カーボンナノチューブが必須となることを知得できた。そこで、[1] 東レが使用する高純度2層カーボンナノチューブは非常に高価、かつ [2] B大学の分散技術が非常に優れる結果、A社は桁違いに安価なカーボンナノチューブを使用可能、という2つの仮説を設定した。かかる2つの仮説がいずれも検証されれば、その結果として、「A社は、東レより価格競争力に富み、二番煎じに陥ることなく商機を見出せる」という、戦略提言が可能となるからだ。特許情報及び非特許情報の両面から鋭意分析した結果、B大学の分散技術によれば、高純度2層型より桁違いに安価な多層型カーボンナノチューブを使用できることを知得し(図8)、上記仮説 [1]/[2] のいずれも検証され、狙い通りの戦略提言ができた。

図8 関連母集団上のベンチマーク企業との対比・分析

図8 関連母集団上のベンチマーク企業との対比・分析

以上を「8つのポイント」に当て嵌めてみると、②「特許情報/非特許情報」の両視点(図5〜8)、③「時系列/非時系列」の両視点(図6など)、④「マクロ/ミクロ」の両視点(図8にて該当特許出願を個別読解)、⑤「ポジション把握」/⑥「ベンチマーク対比」(図6〜8)、⑦「仮説/検証の積上」(図7〜8)など、大半のポイントを満たす。

なお、最後の⑧「将来予測」については、現時点で未だITO型が主流であることから、弊将来予測(戦略提言)が否定される格好となるが、仮にA社事情(不可抗力)で弊戦略提言が採用されなかったとすれば、否定されるものではない。

4.2 特許マーケティング1.0(売込先探索事例)

本事例は、著者が2009年に関与したベンチャー向け案件で、ディファレンシャルGPSと称する高精度計測技術の補正情報提供に強みを有する対象企業(以下、C社という)に対し、既存優良顧客に次ぐ第二の優良顧客探索が目的であった。本事例は、該当特許が僅か2件、しかも分割出願された結果であるため、実質1件しかなく、難儀したことを記憶している。なお、対策詳細は弊講座7)に譲り、ここでは割愛する。

本事例では、まずC社の特徴が浮き彫りになるように母集団を適切に設定した結果、図9の通り、ディファレンシャルGPS関連での存在感が認められた。

図9 対象企業(特許)のポジション把握

図9 対象企業(特許)のポジション把握

次に、かかる母集団上、出願人ランキングマップを作成し、上位出願人について各社Weなどを確認しながらディファレンシャルGPSを伴う事業の有無を確認した。その結果、図10の通り、トプコン(ランキング首位)、ニコン(同2位)、パスコ(同19位)、古野電気(同20位)の4社がベンチマーク候補として特定された。

図10 ランキングマップ上のベンチマーク候補

図10 ランキングマップ上のベンチマーク候補

次いで、優良顧客特定のための要件を検討し、既存優良顧客との関係(図示せず)から、[1] 最終製品の用途や課題の共通点と、[2] 課題の解決手段の相違点の2つを定めた。これらの要件は、「土俵が同じかつ技術的補完関係が成立する」と要約される。これらの要件への当て嵌めの結果、ニコン及び古野電気が排除され、トプコン及びパスコがベンチマーク候補として残った。なお、上記2つのクライテリア自体は一定の普遍性を有し、汎用性も期待される。例えば、大手企業を対象とし、自社が弱い技術をベンチャーの技術で補完したい場合に応用可能である。

図11 ベンチマーク候補との対比/スクリーニング

図11 ベンチマーク候補との対比/スクリーニング

最後に、トプコン及びパスコにとって、C社の技術が未だ旬(欲しい)か否かを確認すべく、出願時系列マップを作成した(図11)。その結果、トプコンにとっては正に旬であり、パスコにとってもまだまだ旬といえることが確認された。(1) 関連特許件数(ランキング)、(2) 上述した2つの要件の該否、(3) 旬度合についての一連の分析結果を総合勘案した結果、トプコンが売込先として最適、パスコが次点であり、この結果に基づいて売り込むべきという戦略提言に至った。

図12 時系列マップによるベンチマーク候補分析

図12 時系列マップによるベンチマーク候補分析

以上を「8つのポイント」に当て嵌めてみると、②「特許情報/非特許情報」の両視点(図10など)、③「時系列/非時系列」の両視点(図9〜12)、④「マクロ/ミクロ」の両視点(図9にて該当特許出願を個別読解)、⑤「ポジション把握」/⑥「ベンチマーク対比」(図9〜11)、⑦「仮説/検証の積上」(図10〜12にて「トプコンは売込先として有望。何故ならば・・」と展開すれば、実質満たす)など、大半のポイントを満たす。

なお、最後の⑧「将来予測」については、弊解析から約1年後に正に的中した。C社がトプコンと提携を果たし、かつパスコがC社顧客入りを果たしたのだ。

4.3 特許マーケティング2.0(有望用途開発事例)

本事例は、著者が2015年に関与した大手素材事業部向け案件で、フッ素化学品の新規用途開発を目的としたものである。対象企業(以下、D社という)は、古くからフッ素化学品事業部を有し、同社Web上、多種多様な用途が開示されており、D社Web上に開示されていない有望用途の探は難題であった。しかも、D社名義のフッ素化学品関連特許は1000件超に及ぶため猶更であった(図13)。

図13 A社フッ素化学品関連特許出願群

図13 A社フッ素化学品関連特許出願群

そこで著者は、新たなアプローチとして被引用情報に着目することとした(以下、サイテーション法ともいう)。具体的には、まず対象特許群を大枠で捉え、これを引用した他社後願の中に新規有望用途が含まれると想定した。しかしながら、かかる他社後願には、D社Web上に開示されていない有望用途を見出すことはできなかった。鋭意検討した結果、図13右下の通り、当該他社後願が自社以外に引用した他社先願(同図の茶色網掛部)に着目することが有効との結論を得るとともに、かかる引用情報に基づくアプローチを「サイテーション法の親子ミックス7)と名付けた。「サイテーション法の親子ミックス」の具体例としては、図14右下の通り、D社出願を引用した米デュポン(業界最大手)出願について、D社以外の引用先として富士フイルムが異業種からの参入者として注目に値し得る。そこで個別確認した結果、富士フイルムの該当出願4件のいずれも、撥水性と撥油性を兼ね備えるフッ素化学品の特長を活かしたナノインプリンティング用材料に関することが知得された。出願時期を確認した結果、いずれも比較的最近の出願かつ継続性も認められ、富士フイルムとしての何らかの戦略的意図があることが推認された。なお、本業から遠い用途を探索するには、詳細は割愛するが、異業種参入者や新興国企業などに着目するのが重要7)である。

図14 A社フッ素化学品関連特許出願群の親子引用例

図14 A社フッ素化学品関連特許出願群の親子引用例

そこで、「8つのポイント」の内、特に②「特許情報/非特許情報」の両視点と、⑦「仮説/検証の積上」に基づき鋭意分析した。その結果、[1] 半導体露光装置業界で長く3位のキヤノンが超微細化の壁をナノインプリンティング技術でブレイクスルーし、大逆転を狙っていること、[2] 東芝(メモリ)が競争力強化のためのコストダウンに向けキヤノンとの提携を表明したこと、[3] 更には型を提供する大日本印刷も同調して生産設備増強を表明したことが、それぞれ知得された(図15)。以上より、フッ素化学品の有望用途として、ナノインプリンティング用材料が特定され、これを戦略提言の一つとした(他の有望用途7)は割愛)。なお、「富士フイルムがナノインプリンティング用材料で先行し、特許も確保しているとすれば、D社に勝算はあるのか?」という疑問が湧くかもしれない。この点については、例えば、富士フイルムが開発中の材料をA社が特許情報に基づいて特定した上で、最適な原料を富士フイルムに提案できれば、棲み分け可能で問題無いであろう。富士フイルム自体は、フッ素化学品メーカーではないため、D社を含むサプライヤーから原料を購入すると考えられるからである。

図15 有望用途候補の検証例(ナノインプリンティング)

図15 有望用途候補の検証例(ナノインプリンティング)

以上、「8つのポイント」に当て嵌めてみると、②「特許情報/非特許情報」の両視点(図14〜15)、③「時系列/非時系列」の両視点(図14など)、④「マクロ/ミクロ」の両視点(図14にて該当特許出願を個別読解)、⑥「ベンチマーク対比」(図14にてあえて異業種参入者に注目するなどして実施)、⑦「仮説/検証の積上」(図14〜15で「ナノインプリンティング用材料が有望、何故ならば」と展開して実施)など、やはり大半のポイントを満たす。

4.4 特許マーケティング2.0(ニーズドリブン編)

本編では、著者が2016年に考案した手法「ニーズドリブンバリューチェーン5)の概念を紹介したい(図16)。「ニーズドリブンバリューチェーン」では、「ものづくり」のバリューチェーン上、川上に属する材料メーカーや部品メーカーが(川中に属する直接の顧客に依存せずに)川下に属する最終ユーザーニーズを先回りし、開発テーマ選定や事業化検討に活用可能であり有益である。例えば、3Dプリンター分野であれば、グローバル関連特許情報を収集して設定した母集団上、各出願人を消耗材料メーカー(川上)、プリンターメーカー(川中)、エンドユーザー(川下)に大別し、それぞれの特徴を分析しながら属性の異なるプレイヤー間の関係性を見出す。その結果、材料メーカーであれば、自社材料をどのプレイヤーにどのように売り込めば商機となるかを判断可能であり有益である。

図16 ニーズドリブンバリューチェーン概念図

図16 ニーズドリブンバリューチェーン概念図

4.5 特許マーケティング2.0(データドリブン編)

本編では、著者が2017年に考案した手法「データドリブンバリューチェーン」の概念を紹介したい。上述した「ニーズドリブンバリューチェーン」では、「ものづくり」のバリューチェーンが前提のため、近年のデジタル化に基づく「モノのサービス化」や、「ものづくり」から「ことづくり」へのシフトへの動きには困難である(図17)。かかるデジタル化の動きに適用可能な手法を鋭意検討した結果、「ものづくり」の川下となる最終製品に着目し、それが動作して生成されるデータを起点とした「データドリブンバリューチェーン」を考案するに至った(図18)。「データドリブンバリューチェーン」では、川上でデータが生成、収集され、川中で分析、予測され、川下でデータドリブンビジネスが展開されることを想定する。データドリブンビジネスとしては、例えば、GEによるジェットエンジンのMRO(Maintenance, Repair & Overhaul)ビジネスが挙げられる8)。かかるビジネスは、GEによる顧客囲い込み(ロイヤルティ)戦略に寄与しており、同社の強みの源泉の一つとして周知である8)。「データドリブンバリューチェーン」によれば、第2のGEモデルというと大袈裟かもしれないが、データドリブンビジネスを検討するのに役立つ筈である。

図17 ニーズドリブンバリューチェーンの限界

図17 ニーズドリブンバリューチェーンの限界

図18 データドリブンバリューチェーン概念図

図18 データドリブンバリューチェーン概念図

5.おわりに

本稿では、「IPランドスケープ実践に役立つ知財情報戦略」という主題について、解析手法自体には深入りせずに事例中心に展開し、知財情報解析の新たな可能性を読者の皆さんに少しでも多く伝えることに努めた。伝え切れない部分も多々あっただろうが、読者の皆さんにとって、「IPランドスケープ」実践に向けた第一歩、既に歩んでいる方には更なる一歩に繋がれば望外の幸せである。

本執筆にあたり、特許情報解析の世界で後進を長年指導されている桐山勉氏には、著者を推薦頂いたばかりでなく「IPランドスケープ」の海外取組など、貴重な情報を頂戴した。金沢工業大学大学院 教授の杉光一成氏には、「IPランドスケープ」に加えて「マーケティング・ツールとしての知的財産」を広く提唱頂き、もって著者の「知財情報戦略」及び「特許マーケティング」を後押し頂いた。お二人には、この場を借りて心からお礼申し上げたい。

また、「知財情報戦略」の原型を開発した2009年以降、日本弁理士会 継続研修講座、日本知的財産教育協会 知的財産アナリスト講座(2011年〜)、東京工業大学大学院 キャリアアップMOT(2012年〜)などに登壇し、数多くの受講者や講師陣関係者との出会いがあった。著者とは異なる解析のアプローチやスタイルの持ち主など、魅力的な同志にも恵まれ、共に登壇したり共著するに至った方も少なくない。畏敬する桐山勉氏を目標とし、生涯現役で知財情報解析に尽力することで、著者を支えて下さる全ての方に恩返ししたい。

注記(引用文献、参考文献)

Web参照日は2017年8月14日。文献の名称・URL・肩書などはいずれも執筆当時のものです。

1)知財分析を経営の中枢に「IPランドスケープ」注目集まる M&A戦略に生かす、㈱日本経済新聞社(2017年7月17日朝刊)
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO1887109014072017TCJ000/

2)2013年度 当面する企業経営課題に関する調査結果、一般社団法人 日本能率協会/JMAマネジメント研究所http://www.jma.or.jp/pdf/20131031.pdf

3)特許から考える 失敗しない研究開発【第4回】経営課題を知財で解く、㈱日経BP社 日経ものづくり(2012年7月号)
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/HONSHI/20120625/224960/?SS=imgview&FD=1420927604

4)知財情報戦略-自動運転編-、㈱日経BP社(2016年7月22日発行)http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/255890.html

5)「特許×マーケティング」の威力を知っていますか?-有望な開発テーマや事業が分かる、㈱日経BP社http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/417263/033000128/?rt=nocnt

6)マーケティング・ツールとしての知的財産、杉光一成、東京大学政策ビジョン研究センターhttp://pari.u-tokyo.ac.jp/unit/iam/outcomes/pdf/papers_141021.pdf

7)知財情報戦略講座(上級編)、山内明、㈱情報機構

8)GEジェットエンジン事業にみるイノベーション戦略、みずほ銀行 産業調査部https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1045_02_02.pdf

9)最新のITトレンドとビジネス戦略-サービス&アプリケーション・先進技術編、NetCommerce、2017年8月版https://www.slideshare.net/after311/it201610

10)知財スキル標準version2.0(チェックシート/スキルカード)、特許庁https://www.jpo.go.jp/sesaku/kigyo_chizai/files/chizai_skill_ver_2_0/check_sheet.pdf
https://www.jpo.go.jp/sesaku/kigyo_chizai/files/chizai_skill_ver_2_0/skill_card.pdf

※ 本記事は『Japio YEAR BOOK 2017』(一般財団法人日本特許情報機構、2017年12月発行)掲載の寄稿を転載したものです。本文中の内容・数値・所属・肩書などはいずれも執筆当時のものです。

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